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古賀コン10参加作品として掲載します。

決められたテーマをもとに、1時間でどこまで執筆ができるか、挑戦してみたかったのと、皆さんに作品を届ける機会をと思ったのがきっかけで参加しました。楽しんでいただければ幸いです。

テーマは「ぼくにもできそう」です。

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ぼくの気持ちが変わるとき

 

 リクは、いつも自分に自信がなかった。
 気が弱いリクの口癖は、「ぼくにはできなさそう」。
 同じクラスで幼馴染のタケルは、リクと正反対の性格。大変そうなことでも「できそう!」「やってみる!」と笑って言うから、クラスのリーダー的存在で人気者だ。
 「タケルってすごいな。ぼくはそんな風にはなれないよ。」

 そんなある日、クラスでは音楽会の準備が始まっていた。
 予想通り、タケルは会の司会進行役に選ばれた。
 「リーダーはタケルしかいないよ!」
 リクは、テキパキと動くタケルを見ながら、心の中でつぶやいた。
 ――やっぱり、ぼくにはできなさそう。

 本番前日の放課後。
 体育館は舞台と客席の準備で大忙し。
 リクとタケルは倉庫から椅子を運び出す係で、せわしなく交互に行き来していた。
 「あと何往復くらいだろう?」
 そんなことを考えながら、リクが廊下の角を曲がった時、出あいがしらのタケルと派手にぶつかり、床に転がった。
 ドッターン!
 ぐるん、と世界が回ったような感覚に襲われ、リクは思い切り目をつぶった。
 「いてててて・・」
 「リク、大丈夫か?」
 タケルの声が聞こえ、リクが目を開けると、視界の端に自分の顔が見えた。
 「えっ!?」
 目の前にはタケル・・ではなく、リク自身が立っている。
 「えっ、ぼく、タケルになってる!?」
 声も体も、全部タケルになっていた。
 タケルの顔で驚いているリクを見て、リクの顔をしたタケルも驚いた。
 「なんで俺が・・!? どうなってんの!?」
 体育館のざわめきが遠くに聞こえる中、二人が顔を見合わせて固まっていると、クラスメイトが駆け寄ってきた。
 「タケル、リハーサルの時間だよ、司会頼む!」
 クラスメイトは、タケルの体に入れ替わってしまっているリクに向かって言った。
 「えっ! し、司会!? ぼくが!? 無理、ぼくには・・」
 続きを言いかけて、はっと口を閉じた。
 ――タケルの顔でそれは言えない。言ってはいけない。
 そう思い、リクが無言になっていると、タケルが背中をバンッと叩いた。
 「ほら、『タケル』! みんな待ってるんだ、失敗してもいいからがんばれ!」
 タケルのほうを振り返ると、タケルは大きくうなずいた。
 「タケル、どうかしたの? 具合でも悪い? もしかしてリハーサルできなさそう?」
 クラスメイトが心配そうにリクの顔をのぞきこんだ。
 ――やるしかない。今はタケルとしてやるしかないんだ。
 リクは心臓が跳ねるのを感じた。
 「だい、じょうぶ・・」
 「ほんとに? なんか大丈夫そうじゃないけど、リハーサルできそう?」
 「リハーサル、だね。うん、できそう・・だよ。」
 タケルがほっとしたように息を吐いた。
 体中にぐっと力を込めて、リクは歩き出した。

 体育館の舞台のうえに上がり、マイクの前に立ったとき、リクの体は震えていた。
 「リハーサル、いきまーす!」
 クラスメイトたちの視線が一気にリクに集まった。
 心臓が飛びだしそうなくらいバクバク鳴っている。
 舞台の端から見ていたタケルが、リクに向かって言った。
「リク! じゃなくて、タケル! 気負わなくていいから! “できそう”くらいの気持ちでやればいいんだ。」
 リクはタケルの声を聞いて、一度深呼吸をし、進行表に目をやった。
 進行表には、話す内容がちゃんと書かれている。
 「“できそう”くらいの気持ちで。」
 ――そうだ、進行表を見ながらなら、ぼくにもできそうだ。
 リクはタケルに向かってうなずいた。そして、思い切って、司会の挨拶文を読み始めた。
 マイクを握る手は汗でぬれていたけど、声はしっかり出ていた。

 リハーサルが終わると、みんなが拍手をした。
 「よかったよ、タケル! 明日もその調子で頼むな!」
 リクの顔をしたタケルも、笑顔でガッツポーズを見せてきた。
 「ぼく、できたんだ。」
 その言葉を口にしたとたん、体中が熱くなって、リクは自然と笑顔になっていた。

 入れ替わった二人は、夜になっても入れ替わったまま。
仕方なく、家も入れ替えて一晩を過ごした。
 隣同士の家だし、子どもの頃からお互いよく行き来しているから、タケルの家の中のことはよく分かっていた。
 リクはタケルのベッドに寝ころぶと、はあぁっと息を吐き出した。
 明日は音楽会本番。
 リクはどきどきしながらも、今日のリハーサルのことを思いだしていた。
 「できそう」と思ってやったら、「できた」。
 「そうだ、リハーサルと同じようにやればいいんだ。タケルのためにも、ぼくがやらなくちゃ。」
 そう声にすると、胸の中が熱くなり、力が湧いてくるようだった。

 翌朝。
 見慣れた天井を見て、リクは驚いた。自分の部屋の天井だ。
 「戻ったんだ!」
 部屋の窓を開けると、タケルも起きていて、二人はほっとして笑い合った。
 
 「せっかくだから一緒にやろうぜ!」
と本番直前に、タケルがリクに声をかけてきた。
 「一緒に?」
 「面白そうだろ?」
 リクは、いつもの口癖で返しはしなかった。
 「うん、いいよ! やろう!」

 その日から、リクの口癖は変わった。
 怖くても、「ぼくにもできそう」、と言うようになった。
 その言葉を言うたび、不思議なことに体が動いた。
 「最近のリク、すごいじゃん! なんでも頑張っててさ! 俺、今のリクが一番いいな!」
 タケルの明るい言葉で、失敗したとしても、できるまでもう一度頑張ってみようと思えるようにもなった。
 言葉が、魔法みたいに自分を前に押してくれるのを、リクは感じていた。
 「タケルのおかげだよ。」
 「俺?」
 きょとんとしたタケルに向かって、リクは笑った。
 「“できそう”くらいの気持ちで頑張るのって、なんか良いね。」
 「ぼくにもできそう」――その言葉は、リク自身の力になっていた。

 

天琳

Dec.8.2025

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